バンコク市内に向かって走り出したバスは順調に進んでいた。
しかししばらくすると車内全体が強烈に冷えてきた。
冷蔵庫のような冷たさのクーラーの風が直接身体に当たり、さすがのこの俺でも寒くなった。
この俺が寒いと感じるのは相当なものだ。 おそらく車内の温度は13~14度前後だろう。
しかも風を直接身体に受けているので、体感温度はもっと下回っている。
しかもこのバス、クーラーの風の吹き出し口をどの方向に向けても、必ず体のどこかの部分に当たるので逃げ道が無い。
外は30度を越える猛暑なので、もちろんトレーナーやパーカーなど持ってきているはずが無い。
カンチャナブリに向かってる時の車内でも軽い頭痛がしたが、バンコクへ向かっている今はさっきよりも強烈な頭痛に襲われていた。
頭が割れそうに痛いが、鎮痛剤は生憎ホテルのバッグの中だ。
これは耐えるしかないが、エアコンの風のせいで痛みが引く事は無かった。
頭痛はなんとか我慢するしかないが、寒さを絶えるのはとても辛かったので、窓のカーテンを巻いて寒さを凌いだ。
空の色は、水色からやがて橙色に変わっていった。
頭痛を我慢する為に転寝をする。 一刻も早くバンコクへ到着してほしい。
そしていつのまにか橙から紫、黒へと、空の色はまた変わっていた。
バンコクまでの2時間半は、寒さで眠るに眠れない状態だった。
寒さと頭痛のダブルパンチをなんとか耐え切ると、バンコクの南バスターミナルへ到着した頃には体力が尽きていた。
これからまだタクシーと電車を使い、さらに徒歩でホテルまで戻らないといけないので、さすがに何かを食べて少しでも体力を回復させる事にした。
バスターミナルの中にはフードコートや食堂、ファーストフード店など様々な飲食店が軒を出している。
ファーストフードでハンバーガーやドーナツを食べるよりは温かい現地の味を食べてみたかったので、ターミナルの1階にある食堂へ入った。
しかしタイ語で書いてあるメニューはさっぱり分からない。
なのでメニューの看板を指差して注文した。
しばらくして出てきた食事は看板の写真のとおり。
春雨のようなものに塩味だと思われるスープ、そしてもやしと肉団子がいくつも入っていた。
値段は35BT。 味は抜群に美味く、肉団子はフィッシュボールだった。
スープは思ったとおり塩味で、酸味と辛味もブレンドされている。
本当に文句無く美味しかったのだが、さすがにこれだけでは足りなかった。
しかし食べ終えた後にもう一品頼んで待つのは嫌だったので、ホテル近くのコンビニで何か買って食べる事にした。
店を出てタクシー乗り場へと向かう。
ここからが重要。 ぼったくるようなタクシーだけは面倒なので避けなければならない。
今朝のPhaya Thaiから南バスターミナルまで使ったタクシーは全く健全なタクシーだったが、今回はどうか。
面倒くさそうなおっさん運転手は避けて、なるべく若い運転手のタクシーに乗りたい。
選んだタクシーの運転手は大人しそうな若造だ。
タクシーに乗り込みPhaya Thai駅までと告げるがイマイチ分かってないようだ。
タクシーは走り出し、一応明るい方面へと向かっていった。
しばらく走って街の中をグルグルと回る。
今朝のタクシーは137BT。 今は夜なので渋滞を加味しても150BT前後で到着できるはずだ。
しかしメーターはどんどん上がる。 160、170、180・・・。時間もどんどん過ぎていく。
こいつは100%Phaya Thai駅を分かっていない。 多分ここら辺だろうと思いながら探しているに違いない。
その証拠にさっきSukhumvit駅がの看板見えた。
明らかに行き過ぎ。 市内の中心に入りすぎだ。
Sukhumvit駅はARLのMakkasan駅やMRTのPhetchaburiの隣の駅。
Phaya Thai駅はARLの終点駅なので、日本人の俺でもこいつがPhaya Thai駅を知らないという事が手に取るように分かる。
何度も「Phaya Thai駅まであとどのくらいだ?」と尋ねても「すぐそこだ。」を繰り返すだけ。
その間もメーターは2BTずつ上がっている為、だんだん腹が立ってきた。
「おいてめぇ、本当にPhaya Thai駅知ってるのか? 俺は200BT以上はびた一文払わない。分かったな?」と、ドスの利かせた声で怒鳴った。(もちろんタイ語ではなく英語で。)
すると弱々しい声で「OK、OK」の返事が返ってきた。
これで安心だ、好きなだけ探せ。
メーターは200BTを越えた。
今走っている所は、高級ホテルやデパートが乱立していて、とても賑やかな場所。
Phaya Thaiはこんな華やいでいる地区ではない。もっと端っこの方だ。
さぁ思う存分探せ!
迷子のタクシーが大きな較差店を曲がると、そこにはSiam駅が姿を現した。
バカかこいつは。 ここじゃぁバンコク市内のど真ん中じゃないか。 こいつは本当に知らないのだ。
「おい! Siam駅じゃないか!! Phaya Thaiを通り過ぎてるぞ!!」と怒鳴り、「もういい、降ろせこの野郎」と言って強引にタクシーを止めさせた。
しかし本当の事を言うと、半分怒って半分ラッキーという気持ち。
実はiPodの充電コードを忘れたのでどこかで買いたかったのだ。
このSiam駅はSIAM PARAGONというデパートがあり、きっと充電コードを売っているはず。
街中の露天で怪しげで信用の無い商品を買うより、デパートで買った方が間違いがないだろう。
タクシーを下車してSIAM PARAGONに入った。
案内板を見ると3階にモバイル関連の商品が売っているようなので行ってみると、エレコム製の充電コードを発見。
純正ではないが、エレコム製ならまぁ安心できる。
しかし値段は390BT。 日本製品は高すぎる・・・。
円に換算しても日本で売られている値段と全く変わらない。
しかし無ければ困るものだし、ブランド力は信用に値するので仕方なく購入した。
Siam駅からBTSに乗りSala Daeng駅で下車。
そこからいつものMRT(駅名はSi Lom)に乗り換えてHua Lamphong駅に向かった。
↑の写真の1枚目はSala Daeng駅前、2枚目はSi Lomのホーム。
とても開発途上国とは思えないくらい整備されている。(写真では。)
無事Hua Lamphong駅まで帰ってくる事ができ、あとは徒歩でホテルまで十数分の道程を歩くだけ。
実は今朝ホテルからHua Lamphong駅まで向かう時ショートカットを見つけておいたので、今回はそのショートカットを利用して帰ってみる事にした。
昨日は真っ直ぐ行った道を今日は左に曲がる。
しばらく歩くと、部屋から見えたあの寺の前に出た。
敷地の外側から写真を数枚撮る。
距離を変え、角度を変えながら写真を撮っていると、身体はいつの間にか寺の敷地内に入っていた。
拝観時間は何時までなのか、拝観料は払うのかなど多少の疑問は持ったが、身体は自然にどんどん寺へ近づいて行った。
寺の名前はWat Traimit。
本堂には黄金の仏像があるらしいが、それはこの日記を書いている今知った事で、旅行の時はそんな事は知る由も無かった。
寺の正面は階段になっていて、上へ登れるようになっている。
俺の他にも1組のカップルが先にいたので、後に続いて俺も昇ってみる事にした。
階段を登り切ると結構な高さになる。
そこから靴を脱いで本堂へと入るようになっている。
本堂の外側を一周する事ができるようだったので、先に写真を撮りながらグルっと周ってくる事にした。
どうやらカップルは先に入っていったようだ。
一周してちょうど本堂の入り口の前まで戻って来た時、先程のカップルが出てきた。
では俺も中に・・・。
しかし扉は開かない。
押しても引いてもびくともしない。
別の入り口でもあるのか? と辺りを窺っていると、係員らしき男がやってきて「閉館の時間だ」と言った。
なんと・・・。
もう今更悔やんでも遅すぎる。
でもでもでも本当に悔しい。
せめて時間をあと5分戻す事ができたなら・・・。
偶然入った由緒ある有名な寺を、後ろ髪を引かれながら後にする。
Wat Traimitからホテルへは徒歩約5分。
帰りにコンビニで酒を買ってホテルへ戻った。
部屋に入った頃には22時を過ぎていた。
だいぶ良くなったものの、連日の寝不足と移動の疲れが溜まって、まだ完全には頭痛が治まらない。
戦場にかける橋がたいして面白くなかったのも、頭痛のせいがあるかもしれない。
今日は風呂に入る前に2日分の洗濯をし、それからシャワーを浴びて日記を書いた。
それにしても疲れた一日だった。 |