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 11.01.22 中東の嫌われ者

ベツレヘム 国境

ネビーーッレの所に戻り、いよいよチェックポイントへ向かう事になった。
これでこの物々しいパレスチナともお別れだ。

車は壁伝いに走る。
度々ネビーーッレは「ここも写真撮るか?」と聞いてきた。
そこも先程の壁以上に様々なアートが書かれていて、日本語の文字も見られた。 が、俺は断った。

ここに来てテンションがMAXまで下がりきっていた。
パレスチナの平和とかイスラエルの暴力とかではなく、ただ純粋にネビーーッレはどれだけ吹っかけてくるか。
もう頭の中にはその事しかなかった。
タクシーを運転しながらネビーーッレは様々な事を聞いてきたり、俺を笑わせようとしているのは相変わらずだ。
申し訳ないがその笑顔は純粋な笑顔とは思えない。
必ず裏があり、その裏とは「悪」なのだ。

細い道を10分ほど走り、チェックポイントへ到着した。
何度も言うがネビーーッレは本当に安全運転で、俺はこいつの運転を一度も怖いと思わなかった。
道路に凹凸や段差があれば必ず徐行し、すれ違いできないほどの細い道では必ず相手優先にさせ、曲がり角でもしっかりと速度を落とす。
運転だけなら台湾のパジャマおばさんの方がハチャメチャに怖かった。

さて、これでネビーーッレともパレスチナともお別れ。
さあネビーーッレよ。 一体おいくら万円だい?
覚悟を決めた俺に耳に届いてきた額は、250NISだった。

思ったほどの額ではなかった。
最初は2時間の予定で200NIS。 1時間以上もオーバーして、尚且つ分断壁にも行ってくれて+50NISか。
さらに客を気遣った運転や、道中の会話諸々を考えると+50NISなら惜しいとは思わない。
が、そこですんなり向こうの提示額を支払うほど俺はマヌケじゃない。

「おいネビーーッレ、ふざけんなよ? 200NISジャストのはずだろ?」
とりあえずこう言ってみた。
するとネビーーッレは、「時間もオーバーしたし、僕は君を信頼して待っていたんだよ。」と言う。
おっしゃる通りだ。

さっきも思ったように、驚くほどの額をプラスされたわけでもないし、車内でも盛り上げてくれたし、安全運転だし、名所の説明もしてくれたし、パレスチナの壁にも連れて行ってくれたし、巧く書けないけど払うのは惜しくないが、素直に払いたくない気持ちなんだ。

俺はポケットから240NISを出した。
「申し訳ないが240NISしかない。 これ以外は小銭しかない。 これで勘弁してくれないか?」と言ってみた。
するとネビーーッレは「OK」と言って了承した。
もちろんそれしか金を持ってないのは嘘だ。

今日はホテルの金庫に全体の持ち金の3分の2と財布を置いてきた。
そして残りの金は、まずズボンのポケットに各紙幣を1枚ずつと小額紙幣を数枚と硬貨を直接入れる。
さらに見せかけの緊急用紙幣として、バッグの外ポケットに数枚の紙幣を入れる。
最後にバッグの底板の裏にポケットに入っている倍くらいの紙幣を隠しておく。(これは見つからない自信あり。)
このように念には念を入れて、3箇所に小分けにしたわけだったが、ここまでする必要はなかったようだ。

まぁ色々とネビーーッレを疑ったりしたわけだったが、実際のところは外見ほど悪い奴ではなく、最終的にはこいつで正解だったかもしれない。

ところで、これだけたくさんパレスチナの日記を書いてきたわけだが、実際の旅行中ではここはパレスチナだとは思っていなかった。
この日記では[6日目 - パレスチナ自治区、ベツレヘムへ]からパレスチナに入国しているが、自分はまだイスラエル内にいたつもりだった。
パレスチナの入国がこんなに簡単だとは思わなかったので。

ネビーーッレに金を支払いチェックポイントへ入っていく。
この柵で囲まれた通路は実際他のサイトで見た事があった。

国境 国境

この通路をどんどん奥に進んで行く。
すると、この旅で1位、2位を争うほどのムカつく奴に出会った。
なぜかこの通路の中を行ったり来たりウロチョロしてる子供が1人。
俺を見つけるとやはり一目散にやって来た。

最初に口から出た言葉は「通行料を払え。」

アホかと。 そんなはずがあるか。
カウンターの中にいる軍服を着た軍人に出国税として支払うならまだ説得力はあるが、ゲートへ向かう途中の通路にウロチョロしている眉毛のつながったクソガキに支払う必要などあるはずがない。
ガキを無視して進むとまた何かを言ってきたが、「father」という単語しか聞き取れなかった。
「父さんに言いつけるぞ」と言ったのか、「父さんは兵士に殺されてしまったんだ」と言ったのか、おそらくそんなところだと思う。

とにかくこいつの目的は金だ。
今なら分かるが、貧しいパレスチナの子供たちはこうして日銭を稼いでいるのだ。
そして最終的にはポストカードの束を出してきた。
なるほど。 最初は金だけ貰おうという算段だったが、無理だとわかって作戦を変えてきたのか。
7、8枚で1束になったポストカードをちらつかせてくる。
あー鬱陶しい。 いらねーよ。 ポストカードなんて。

小銭を出して追い払おうと思いポケットから小銭を出した瞬間、ガキは15NIS~20NISくらいの小銭を俺の手からふんだくった。
そればかりか1度こちらが手にしたポストカードまでもふんだくった。
こいつの思ってた額より少なかったからなのか、それとも最初から渡すつもりなどなかったのか。

ものっすごく頭にきたので、「てめえこのクソガキ、金返しやがれ!」と日本語でドスを聞かせて掴みかかろうとすると、ガキは慌ててポストカードを差し出してきた。
俺はポストカードなんかより金の方が惜しかったが、労力を考えると400円くらいの出費などどうでもよくなった。
ポストカードなんて全く不要だけど、このクソガキの資産を取れたのでヨシとする。

ガキはまだしつこく何かを言いながら俺の周りでウロチョロしているが、無視して進む事にした。
その先には回転バーがあり、それを過ぎると広い空間に出た。
ガキは回転バーから先には追ってこなかった。
(この時はガキが諦めた理由なんてどうでもよかったが、実際はパレスチナ人はそこから先には進めないのだ。 なので諦めたわけではなく、諦めるしかなかったわけだ。)

広場の隅にまた通路があり、建物の中へと続いている。
そこにも回転バーがあり、抜けて進んでいく。
途中でトイレがあったので小便をしようと思ったが、ものすごく臭かったのでやめといた。
それにしてもノーチェックで誰もいない。
第1の回転バーにも第2の回転バーにも係員はおろか、軍人さえもいなかった。

そして3箇所目の回転バーの前。
数人の人間がそこで立ち止まっている。
今度は回転バーではな、くセンサー付きの1人ずつ通らなければならない回転扉だった。
立ち止まって並んでいるのは旅行者ばかり。
どうやらその先に金属探知機と手荷物のX線検査のポイントがあるのだが、係員がいないらしく扉が開かないようだ。

俺もその連中と同じように並んだが、5分待っても10分待っても係員が来る気配が無い。
20分過ぎたところでようやく若い軍人が来て扉が開いた。
金属探知ゲートをくぐり、手荷物のX線検査を済ませる。
これで晴れて壁の内側か!! とこの時は思ったが、実際には晴れて壁の外側に出る事ができた。

国境 国境

↑これがイスラエル側の出国通路。
この時初めて自分は「あぁ、壁の外に出たんだな」と思った。
ではいつの間に壁の内側に入っていたのだろうか。
旅行中はさっぱり気付かなかったが、[6日目 - パレスチナ自治区、ベツレヘムへ]で軍人が乗り込んできた時点で壁の内側、即ちパレスチナに入国していたのだ。

そして近くに停まっていたアラブバスに乗り込み、パレスチナを後にした。
パレスチナから旧市街までは5NISだった。
異様に疲れたので車内では爆睡してしまった。

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