しばらくすると車掌が寝台を畳みに来た。
朝になっても中国ババアは俺の前に来なかった。(結局降りる時間になっても戻ってこなかったので、きっと荷物ごと移動したのであろう。それでも夜間は上で寝ていたに違いないが。)
定刻では8:00過ぎの到着予定だったが遅れる事1時間、9:00を回ってチェンマイに到着した。
ここチェンマイも見事に快晴で、朝の空気が気持ちいい。
写真を撮りながらホームを歩き、駅舎を出る。
駅を出て目の前のロータリーに向かう。
外国人旅行者はみんなロータリーに停車している乗り合いタクシーで各々のホテルへと向かうようだ。
もちろん客引きも多く、俺のところにも声を掛けてきた。
どうするか迷ったが、Googlemapが歩けと言っているので、ホテルまで歩く事にした。
地図を慎重に眺めて現在位置とホテルまでの道程を頭の中でシミュレーションし、ゆっくりと歩き出した。
まずは目の前の道路を右に行き、最初の交差点を左折した後しばらく直進・・・。
多少遠回りになっても、ショートカットして迷うよりはよっぽどマシ。 急がば回れで確実に!
頭の中で何度も自分に言い聞かせたのだが、午前中とはいえここは東南アジアのタイ。
北部の都市とはいえ東南アジアのタイ。
1分も歩くと限界に達した。 まだ最初の交差点にすら来てないのだが。
何といっても暑い。 そして荷物が重い。
再び駅のロータリーに戻るが、乗り合いタクシーは全て出払ってしまっていて一台も残ってない。
これは困った。 今なら客引き大歓迎なのだが。
あの時他の外人と一緒に乗っておけばよかったぜ・・・と悔やんでも今更後の祭り。
今はもう乗り合いタクシーどころか、外国人観光客すらいなくなってしまったこのロータリー広場の片隅で途方に暮れる。
実際にはそこまで大げさに考えていたわけではないが、「タクシーがいないのなら歩くしかないから嫌だなぁ・・・。」と思ったくらい。
とりあえず一服して時間を潰して、さっきの乗り合いタクシーが帰って来るのを待ってみようかと思ったが、それもすぐにやめた。
なぜなら、乗り合いタクシーはきっと列車の到着時刻に合わせて駅に来るに違いない。
この駅が東京や大阪のように頻繁に列車がくるはずないので、次に乗り合いタクシーが待機する時間までは数時間あるはずだ。
そう考えるともはや歩くしか道は残されてないと考えるのが妥当だ。
それなら陽が完全に頭の上に昇る前に歩いたほうがマシだ。
重い腰を上げて歩く決意をし、ロータリーから出ようとした瞬間、目の片隅にチラッと白タクらしきおっさんの顔が目に入った。
面倒くさいけど疲れるよりマシ! さっそくおっさんに声を掛ける。
やはり正解、白タクのおっさんだった。
ホテルのバウチャーを見せて料金交渉開始。
100BTで互いの利害が一致し、ホテルまで行ってもらう事にした。
乗り合いタクシーならば一人30~40BTが相場らしいが、まぁ一人乗車の白タク相手なら妥当な料金だろう。
しかも乗り合いタクシーのように自分のホテルが後回しになる事もないし、車内も冷房が効いていてシートもビロード張りでフカフカしていて乗り心地はかなり良い。
歩く予定だった道を車は快適に飛ばす。
ホテルまでは車で10分ちょっとといったところだろうか、最初の交差点を左折してからの直進が意外に長かった。
歩かなくてよかった・・・と心底思った。
ホテルに到着し、タクシーを降りる。
しかし時刻はまだ10:00前なのでチェックインできるかどうかが問題。
できなかったら荷物だけ預かってもらって街をブラブラしてこようか。
とりあえずフロントでチェックインできるか聞いてみるとOKとの返事。
手続きを済ませてキーを受け取る。 325号室だ。
昨日までのチャイナタウンホテルとは違い、普通に格式ある綺麗なホテルで、チェンマイでこのレベルとこの対応なら間違いなく4つ星クラスだろう。
それも当然、1泊の値段がチャイナタウンホテルの倍もする。
部屋に入り、まずは写真を撮る。
おお、綺麗なベッド、フカフカなソファ、そして清潔な浴槽!
とりあえずシャワーを浴びて汚れを落としてさっぱりし、溜まっている日記を書き始めた。
あまりに熱中して書いていたので、気が付くと時刻は16:00を過ぎていた。