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 13.05.05 微笑みの寺

幸か不幸か 貴重な体験

寺の横の外階段から中に入ろうとすると靴がたくさん脱いであったので、俺もそれに倣って靴を脱ぎ、入り口の階段を上る。
昇りきった所は寺のテラスになっていて、ちょうど中から白装束を身に纏った僧侶が出てきたところだった。

この僧侶、顔を見る限りまだかなり若い。
頭髪はもちろんの事、眉毛まで剃っていて、恐らくは全身剃毛でツルツルだと思う。
しばらくすると若僧侶はテラスの中の一段高い場所に立ち、外の観光客に向かって小銭を投げ始めた。
こんな事するなら俺も外にいればよかったぜ・・・と思っていると、最後は我々のいるテラスの内側にも小銭を撒いてくれた。

若者の出家 若者の出家

外の観光客達もそうだが、テラス内にいる人間もみんなコインを拾っている。
自分もお金は欲しいので、近くに落ちていたコインを数枚拾った。
見るとそれは本物のお金で、4BTほど儲けてしまった。
それにしてもこの僧侶、まだかなり若そうに見えるのにそんなに位が高いのか。
それとも何かをして一気に徳を積んだのか。

その後、他の人たちが中に入っていくので、俺も中を撮影したい一心で入っていく。
中は広く、奥の祭壇には豪華な装飾と黄金の仏像が祀られていた。
中には一般人が30人ほどがいて、壇上には20人弱の僧侶が並んでいた。

その壇上の一番先頭に先程の白装束の若い僧侶が座っている。
他の僧侶は皆オレンジの袈裟を纏っているのに、この僧侶だけ白装束。
こんなに若いのに他の僧侶より位が高いなんてたいしたもんだ。

中へ入った一般人は老若男女様々で、みんなが正座して座り始めたので俺も写真を撮るに好都合な一番前のベストポジションを陣取って座った。
写真を撮っているのはカメラマンと子供しかいなかったが、撮影禁止ではないようなので俺も数枚写真を撮った。

若者の出家 若者の出家

そして儀式は始まった。
お経を唱えるのから始まって、先輩僧侶の後に続いて白装束の若僧侶もお経を繰り返す。
このお経が長く数十分間続き、先輩僧侶の支持で参列者の若者数人が指名されて、若僧侶に花やオレンジの袈裟を渡していた。

今、この時点ではっきりと分かった。
この寺の中で何が行われているのかを。
俺はこの場にはいてはいけない人間だったのだ。

出席している僧侶、着席している老若男女の参列者は全てタイ人で、おそらくは全員が白装束の僧侶の血縁者か、それに近しい人たちだろう。
そしてこの白装束の若僧侶は、位が高いのではなくこれから出家する人間なのだ。
そして今日この時間は、出家の為の大事な儀式なのだ。

俺は一体ここで何をしているのか。
参列者のタイ人を押しのけて一番前に陣取って座って。
そしてさっきから儀式を撮っているカメラマン。 時折参列者のほうも撮っているので、関係の無い俺も絶対に写ってるはずだ。
そしてきっと出来上がった写真を見て、みんなが「コイツ誰だ?」というに違いない。
なぜ誰も何も言わないのか。
全く関係の無い、面識が無い俺がここに混ざっていて不審に思わないのだろうか。

若者の出家 若者の出家

儀式は進んで行き、先輩僧侶の指示で次々に参列者が駆り出され、白装束を脱いだ後の片付けや若僧侶が建っていた簾の片付け、花や貢物を渡す役目など、無差別に指名されていく。
これはまずい。
このままでは最前列にいる俺も何かを指名される可能性があるぞ!
万が一指名されても見よう見真似でやってみてもいいのだが、もし意に反したり規律に背いたりするような行動を知らずにとったりしたら大変だ。
ここは大人しく下を向いて目を合わせないようにしなければ。
あぁ・・・早くここから出たい!!

下を向いて石になる事数十分、この儀式は一体いつまで続くのか。
俺には時間が無い。 ここはどうやらまだWat Arunではないようだし、その後はWato Phoに行かなくてはならない。 夜行列車の時間も刻々と近づいている。
なぜ俺はここに紛れ込んでしまったのか。
興味本位でここに入ってきてしまった俺も悪いのだろうが、それなら関係者以外お断りと最初から言ってほしかった。
現に、他の観光客は外から覗いているだけなのだ。

まぁ別に怒られたわけでもないし、タイ人とそんなに顔つきがかけ離れているわけでもないからスルーされたのだろう。
普通に観光をしていれば若者の出家の瞬間なんか立ち会える事は無いので、これはバッドな展開というよりはラッキーと捕らえたほうがいいだろう。

しかし俺にはここで最後まで見届けている時間は無いのだ。
乗りかかった舟なのだから、この若者が立派な坊さんになるのを見届けたいという気持ちもあるのだが、今回に限ってはノンビリしてる時間がないのだ。

若者の出家 若者の出家

早く終わってくれ、このお経! と思いつつも、読み上げている時には手を合わせて祈る俺。
そうでもしないと最前列にいる俺は目立ちまくってしまう。
周りのタイ人の皆さん、異教徒・・・というより、無神論者の俺がこんな所にいて大変申し訳ない!!
本当にそんな気持ちでいっぱいだった。

お経を読み始めてから1時間弱経ったところで、半分くらいの参列者が立ち上がり我先にと若僧侶に渡す花束を受け取りに行く。
これはチャンス! この機会を逃すわけには行かない。
と思いながら席を立つ。 荷物を持って。
しかしその足の行く方向は、花束を受け取りに行く他の参列者とは逆方向で、一人だけ出口に向かってそそくさと・・・。
なるべく周りを見ないようにしながら・・・。

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