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 13.05.05 微笑みの寺

到着! メークロン市場

さっきMahachai駅まで乗ってきた列車と全く同じ外装の車両が、ディーゼルエンジンを呻らせながらゆっくりと単式1面1線のホームに入ってきた。
わずかな乗客が降車し、そしてまたわずかな乗客が乗車する。
乗り込むと、そこは外装だけでなく内装もさっき乗ってきたものと全く同じ。

少し停車した後、列車は呻りを上げながらついさっき走ってきた線路を引き返すように、メークロン市場へと向けて走り出した。
車窓から見える風景はMahachai線から見るより、さらに途上国さが色濃く出ている気がする。

しばらくは外の風景を撮影したり眺めたりしながら、田舎列車の旅を楽しんだ。
最初は貧民街のような地元住民が住む家が多かったが、少しすると塩田や沼地が目立つようになり、変わらない景色を眺めているのも飽きてきた。
それに加えてディーゼルの音と心地よい揺れ、さらに追い討ちをかけるように窓から入ってくる風が顔に吹き付けて、汗を引かせる。
早起きしたせいもあり、いつの間にか眠ってしまっていた。

度々目を覚ましながらも居眠りをしていると、車内が少し慌しくなり始めた。
これはひょっとしてメークロン市場が近いのでは!?
チャンスだ! 市場が軒を畳んでいるシーンが撮れるぞ!! と、夢うつつに思いながら目を開けて窓の外を見る。
列車は商店に突入した直後らしく、眼前にメークロンの線路市場が飛び込んできた。
店先との距離は10cmもない。
慌ててカメラを取り出して、市場を通過する様子を動画に収めた。

うっひょー! これはテンションが上がる!!
夢にまで見たこの光景!
十数回タイに旅行に行ってる父もここには来た事無いだろうから、いい自慢になる。

列車は商店の軒先を掠めながらスピードを落として通過していく。
動画を撮る為に窓の外に出した腕も、気をつけないと商店の軒に当たって怪我をしてしまうので気が抜けない。
やがて商店が途切れると踏み切りを渡り、直後が駅になっているようで、そのまま駅舎の中へと入っていった。
時刻は12時を回っていた。

やっと到着したメークロン市場。
予定していた到着時刻より1時間以上遅れたが、こんな辺鄙なところまで自分の力で来れた事に大満足。
とりあえずは駅の中を少し撮影し、先程通過してきた線路市場へと向かう事にした。

国鉄Maeklong駅 国鉄Maeklong駅

やはりこの駅もプラットホームの両側には商店がずらりと並んでいる。
衣服や雑貨、飲食店の屋台まで幅広く出展していて、ちょうど昼食時のためか食事をしている人も多かった。
メークロンの線路上市場までは駅から目と鼻の先。
ついさっき通ってきたところなので迷いようがない。

まずは市場の入り口から市場が終わるところまで歩いてみようと思い、カメラを動画モードにしながら歩く事にした。
両側の商店の軒先が重なるこの市場は、線路上にあるためものすごく狭い。
市場に足を踏み入れると、その雑踏と喧騒がいかにもザ・東南アジアという雰囲気を醸し出していた。

店には様々なものが売られている。
肉、魚、野菜、果物、干物、漢方、雑貨・・・レールの両側にある商店は互いに支えあうようにして軒を出している。
ここで初めて納得した。
生ものを多く扱うこの市場は直射日光は厳禁。
スーパーのような鮮魚ケースが無いので店先に軒を出して日影を作り、保冷方法は氷を直接ばら撒く。
そして列車の通過する時だけ軒を揚げて、日光の照らす時間を最小限にとどめているのだ。

市場内は観光客や地元民でごった返している。
レールに当たりそうなくらいの近距離まで店が出展しているので、人間が歩く場所はレールの内側しかない。
それもおそらくは狭軌の軌間である為、すれ違うのも一苦労だ。
(後日調べたところによると、メークロン線を含むタイ国鉄の軌間は1000mmで、狭軌より狭い。)

様々なものが売られ、様々な音がして、様々な匂いが入り混じってアジアの熱気を肌で感じる事ができる。
これは決してテレビや雑誌では体験できない事だ。
軒下の線路上を足早に7~8分歩くと、やがて商店も軒も途切れて人もいなくなった。
市場の終点に到着したようだ。

メークロン市場 メークロン市場

来た方向を振り返ると、深い軒が続いている。
もう一度振り返って進行方向を見てみると、雑草に覆われた線路が延びている。
もう少し歩いてみるとかなり大きな踏切に出たので、どうやらここから先は市場はもう無いようだ。

メークロン市場 メークロン市場

再び市場の出口まで戻り、今度はゆっくりと堪能しながら市場内を歩いてみようと思っていると、遠くから列車の気配がした。
どうやらMaeklong駅から発車した列車が市場を通るようだ。
遠くから列車の警笛の音が聞こえ、それに合わせて商店も軒を畳んでいる。

間違いない。 列車が来る!!
カメラを構えて列車の通過を待つ。
さっきは車内からの風景、今度は線路際から列車が通過する風景と、通過後の軒を降ろす商店の風景が撮れる!
できれば市場内で撮りたかったが、列車がもう来てしまうんだから仕方が無い。

市場の軒が次々に畳まれていく。
そしてどんどん近づいてくる警笛と車輪の音。
線路上には市場が無くなり、人も線路脇や店先に退避した。

さっきまでの俺と同じように、車内からは市場を見るべく乗客が窓から顔を出していた。
そして今度は俺が下から列車を眺める番。
列車は目の前をゆっくりと通り過ぎていった。

列車通過後は数秒前と変わらぬように商店の軒を出す店の人達と、商店の中や建物の影に退避していた客達が再びわらわらと線路上に出てきて、すぐに元の賑わいへと戻った。

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