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 11.04.28 社会主義の途上国

ハロン湾クルーズ 新しい出会い

我先に! という気持ちで他の参加者より早々に船に乗り込んだ為適当に空いている船内のテーブルに着席した。
一人で来ているのは俺くらいなので誰と一緒になろうと構わないのだが、徐々に入ってきたツアーの参加者の中には日本人のグループやカップルも数組含まれていた。
やはりできれば日本人カップルなんかと一緒に座りたくない。

6人がけのテーブルに座り、一人外を眺めている俺。
その横顔はクールを装いながらも、『日本人のカップルだけは座るな!』という祈りの気持ちが心の中には広がっていた。
しばらくすると誰かが俺と同じテーブルに着席してきた。
俺の前に女性2人、俺の横に男性1人の合わせて3人組のようだ。

その時は特に彼女らの方を見て人物像を確認したわけではないのだが、視界に少し入った外見では日本人ではなかったので安心した。
この時ここに座ってきた彼女らこそ、今回のタイトルの[新しい出会い]の張本人達なのであったが、今はまだ知る由も無い。

ハロン湾クルーズ ハロン湾クルーズ

ツアーの乗客が全員乗り込みしばらくすると、船はゆっくりと沖へと向かって動き出した。
そして、それと同時にガイドがツアーの行程を話し始めたが、英語で喋っているのでスルーする事にし(パンフレットがあるので充分)、とりあえず写真を撮り始めた。
が、この時点ではまだそんなに見所は無い。

桟橋を過ぎ、クルーズの為の似たような客船がたくさん停泊している。
その中に混じって、手漕ぎ船に乗った物売りの船もある。
しかしそれらも数分もすると無くなり、同じようにツアー客を乗せた客船が湾を走っている姿だけになった。
世界遺産の奇岩や島々はまだかなり遠くにあり、悪天の靄に霞んで小さく見える程度だ。

日本語以外の語学に乏しい俺はただひたすら外を眺め、時折斬新に目に映る風景を写真に収めていた。
ゆっくりと走る船の鼻につく排気ガスの匂いは現実を忘れさせるのは充分で、ディーゼル音と振動に酔いしれながらぼんやりと外を眺め、島々が間近に見えるのを待った。
とりあえずこれで目標は達成だ。
世界遺産のハロン湾のクルーズだ! 周りの奴らとは(特に日本人カップルやグループを見ながら)きっと奴らとは違う達成感があるに違いない! と思い込んだ。
後はこの功績をしっかりと瞼とファインダーに収めればいいだけだ。

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10分・・・15分・・・ちらほら岩山が近くに見え始めてきた頃、同じ席に座った3人組が話しかけてきた。
話しかけてきたのは女性の方であった。
第一声は何であったかはもうすでに記憶から消えているが、俺はそれがとても嬉しかった。
日本語ではなかったのは当然すぐに分かったが、その後のコミュニケーションのツールの一つである「言語」に対する不安など、本当に一切無かった。

いくら俺が無能とはいえ中3レベルの語学力くらいはあり、英語での会話であればネイティブな人達の2歳児くらいのレベルはあるだろう。
彼女達はOil 18歳(ジョーク)女性、Ohm 29歳女性、Tea 38歳男性のタイ人の旅行者だった。(名前はおそらく俗称)

この3人組とはこの後も今日一日ずっと一緒に行動する事になるのだが、後ろの席から聞こえてくる日本語に対しては、もはや雑音程度にしか響いてこない。
女性2人は流暢な英語でどんどん俺に話しかけてくる。
男性の方はというと、全く話しかけてこないので恐らく英語はほとんど喋れないのだと思うが(推測だが)、終始ニコニコしていてものすごく良い人臭がしてくる。

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と、偉そうに色々と言っているが俺の英語力もかなり惨めなものなので、まず聞く事に必死。
そして聞いた事を日本語に訳すのに必死。
さらに自分言葉を伝えるのに必死。
単語が分からなかったら代替を探すのに必死。
笑顔とは裏腹に頭の中は知識総動員でかなりの忙しさがあったが、それも最初の5分くらいなもので、変な萎縮や緊張はすぐに解けていた。

色々とたくさん話しかけてきてくれて、それに対して俺も答えながら質問をして・・・そう言うとかなり固く聞こえるが、単語だとか文法だとかより笑顔とフィーリングで会話しているといった感じだった。
元々お互いに母国語が英語の国ではないし、たとえそれ長けていたとしても、このようなシチュエーションの場合にはきっちりした文法など不要なんだ。
面白ければ笑う。
違っていたらNo。
分からなかったらSorry, I Don't Know。
質問したかったら疑問系じゃなくても会話の語尾を上げればいい。
あとはジェスチャーで気持ちを表せればOK。
偉そうに言っているが、本当にそれでコミュニケーションを取る事ができたのだ。

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今日このツアーに参加して本当によかった。
会話の途切れる事ない心から楽しい時間を過ごしていると、景色は"パンフレットに載っているハロン湾"に変わっていた。

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