エレベーターで1Fまで降り、死海へ続くビーチを探してみる。
このホテルは死海の前に建てられていて、直接ホテル用のビーチへ行けるのが特徴だ。
といっても、ここらへんでは多くのホテルがそういう構造になっていると思う。
さらに階段で下へ降り、土産物屋やSPAなどの脇を通ってビーチへと向かう通路に出た。
外に出るとホテルの中庭になっていて、すぐ目の前が死海だ。
さすが高い金を払っただけある。
しかしビーチに出て驚いたのは、人が全く居ない。
もう夕方だからだろうか。 それとも冬だからだろうか。
冬といっても海抜-400mの死海はとても温暖で、1月でも20度を越す温かさだから、絶好の海水浴日和なはず。
ひとまず死海の畔を歩いてみた。
俺しか居ない。 俺だけの空間。 まさにプライベートビーチだぜ。 こうなったらもう今は絶対に誰も来るんじゃねえ。
そして誰もがやってるであろう死海の水を舐めてみる。
しょっぱい というよりしょっぱすぎて辛い。 ピリピリする。
夕日が沈みかけて遠くの陸地が上下対称に水面に写ってとても綺麗。
向こうの陸地はヨルダンなんだろうか。
ヨルダンとイスラエルはとても仲が悪い。
というより、イスラエルは中東諸国のほとんどと敵対している。
だからパスポートにイスラエルの入国スタンプがあると、多くの中東諸国に入国を拒否される。
これを回避するにはスタンプを押さないでもらうか、パスポートを再発行するしかない。
俺の場合は、パスポートの残期間4年で他の中東なんて行くはずがないから押してもらったけど。
この死海はイスラエルでは一大リゾート地だけど、それは対岸のヨルダンも同じらしい。
水中の石を見てみると塩が固まって石にこびり付いている。
とりあえず更衣室で海パンに着替え、ゆっくりと水に入って見る。
お、おお。 思ったよりは冷たくない。 けどやっぱり冷たい。
足だけならすぐに慣れるだろうけど、膝→腰→胸と浸かるのはだいぶ時間がかかりそう。
水の中を歩いて、膝くらいまでの深さになるまで移動する。
ところで足の裏がかなり痛い。
普通の海のビーチは底は砂になっているが、死海の場合は大粒の塩に覆われている。
湖底を手ですくうと、砂ではなく塩がすくえる。
味塩のように細かいなら痛くないが、塩の粒は砂利くらいあるのでけっこう痛い。
腰まで水に浸かる事に成功したが、その後の胸までが中々進まない。
しかし冷たいのは水面だけで、水中は驚くほど暖かい。
これなら1回だけ勇気を出して水に浸かれば後はどうって事ないはず。
死海といえば『浮く』事が有名なので、水中で腰を下ろしてみる。
身体の重心が自然に後ろに流れ、足が浮かび上がってきた。 本当に浮く! のび太だって絶対に沈まない!!
だからひっくり返らないようにさえ注意すればカメラを持ってたって大丈夫。
本当は浮かんで新聞でも読んでる姿を写真に収めたかったのだが、撮ってくれる人が誰も居ないから諦めた。
プカプカ浮いてる最中に人を発見。
ビーチに置いてあるチェアを整理したりしている黒人が居た。 明らかに客ではなくホテルの従業員だ。
おーい。 俺の浮かんでる姿を撮ってくれ。
この何ともいえないプカプカ感がとても気持ちいい。
沈まないから居眠りもできるし、風に流されて気付いたらヨルダンなんて事もあるかもしれない。
しかし顔をつけるのはためらう。
海水の塩分濃度が約3%なのに対し、死海の塩分濃度は30%と海水の10倍にも及ぶので、水中で目なんか開けたら大惨事になると思う。
ちなみに死海の塩は食塩にするにはあまり向いてなく、どちらかというと美容や治療に多く使われる。
そういえば30分ほど遊泳しただけで肌がツルツルになった気がした。
が、ヌルヌルしていただけだった。
だいぶ陽も沈んできたので、ビーチのシャワーで塩分を洗い落とし、着替えて部屋へと戻る事にした。
戻ってる途中に黒人が撮ってくれた写真をチェックしたら・・・数枚撮ってもらったはずなのに全部写ってなかった。
文明の差だな と思った。
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