飛行機を降り一服を済ませる。
とりあえずは予約してあるホテルまで行き、そこから市内散策をする予定だ。
今回の飛行は、大きいバッグは手荷物にしなかった。 言葉も分からない所で手荷物にすると色々と面倒そうだからね。
オーストラリアの出国の時も散々何か言ってたのを思い出したし。
それにしても遅いな。
こねーな、俺のバッグ。
む、俺だけじゃないな。 他にもまだ待ってる奴らがいるのか。
コンベアからは何も流れてこなくなったぞ。
それにしても遅いな。
・・・コンベアが止まったぞ。
荷物が来ない。 俺の荷物が来ない。 いや、周りを見ると俺だけじゃない。
7、8人荷物が来てない様子の奴らがいる。
ま、まぁもう少し待ってみるか。 コンベアがまた動き出して荷物が流れてくるかもしれないし・・・。
30分待ってみたが、コンベアが動く気配など無い。 もちろん荷物など流れてこない。
他の外人たちはとっくに空港カウンターで話して去ってしまった。
残ってるのは俺だけ。 本当に俺だけ。
空港従業員は既にはけてしまった。 喫茶店の店員も居なくなった。
いやいやいや、すっげーーーー不安なんだけど。
まずは俺の荷物が来てない事を空港の人間に伝えなければ。
でも言葉が分からない。「私の荷物が届いていません!」とは何と言えばいいのか・・・。
Lost・・・だと紛失になるだろうし・・・。
気は進まないがm_otnに聞いてみるか・・・「私の荷物が届いていません!」って英語でなんて言うの・・・っと。
そして返ってきたメールは・・・俺でも分かるくらいメチャクチャ。 ひどすぎる。
これで2年間英会話教室に通ってたのか・・・失礼だが何の身にもなっていない。 少しでも期待した俺が本当にバカだった。
しょうがない、妹に聞くか。 そうだ、最初からそうすればよかったんだ。
少なくともm_otnよりは頼りになるはずだ。 しかも仕事もその道のプロだろ。
そしてもう面倒くさいから電話だ。 国際電話でも家族通話は無料になるのか?とふと思ったが、そんなこたー今はどうでもいい。
妹の後ろで親父が何か言っているのが電話口から聞こえてくる。
妹:「後ろでおっさんがうるさいんだよ、喋りたいらしい。代わっていい?」
俺:「奴もその道のプロだしな、しかたないから代わってやって。」
父:「おおともひろか、英語ではペラペラペ~ラって言えば通じるから誰か探して言ってみろ!」
俺:「いや・・・発音悪いうえに声がかすれて聞き取れないwww」
父:「だからぁ、ペラペラペ~ラだよ。」
俺:「もういいから、声がかすれて聞き取れないんだよw えりこに代わってくれ!」
母:「もしもし、ともひろ!? バッグが来ないんだって!?」
俺:「なんでおめーが出るんだよwww 」
忘れないようにノートにメモってカウンターのおばちゃんのとこまで行く。
もうこの時点で、ロヴァニエミに到着して1時間は経っている・・・。
先程教わった英語で自分の荷物が届いてない事を告げ、フライトナンバーとタグナンバーとバッグの特徴を言う。
やはり空港側のミスで荷物はロヴァニエミには届いていないらしい。
次(17:25)か、その次(21:30)の便で来るとの事。 俺のヒアリングもたいしたもんだ。
でも次の便まではまだ3時間もあるし、その次だと7時間もある・・・。
さすが田舎空港。 待ってられないので荷物は到着したらホテルへ持ってきてもらうよう約束し、ホテルの名前と自分の名前を伝えた。
小さい街でホテルの数も多くないから大丈夫だろう。
とりあえずバスで街まで向かう事にした。
ところがだ。 バスはおろかタクシーすら1台もいない。
そしてさっきまでいたもうカウンターのおばちゃんも、もう引き上げてしまっていない。
っていうか、この空港の見える部分には俺しかいない。 客も従業員も犬も猫も全くいない。
どうすんのよ。 やはりタクシーも飛行機が到着する時しか待機しないんだろう。
こうなったら自分でタクシーを呼ぶしかない。
タクシー会社の電話番号はどこかで見て控えてある。 あとは公衆電話を探すだけだ。
・・・無い。 公衆電話が無い。
どこを探しても無い。 空港の中も、外も。
そして空港の周りは店の1件も見当たらない。
こうなったら俺の携帯電話で呼び出すしかない。
えーと確か俺がフィンランド国内にいてフィンランド国内に電話をかけるとしても国番号からダイヤルしないといけないんだよな・・・。
お、つながった。 何かアナウンスが流れている。
そして切れた。 ・・・。
何度試しても同じ。 機械のアナウンスは何を言ってるかさっぱり分からない。
・・・。
到着してから何時間経ってるだろう。
既に2時間、いや3時間近く経過している。 心細い。
人もいない。 タクシーもいない。 電話も通じない。
たびたび喫煙所で一服をしていると、たまーに従業員がタバコを吸いに来る。
誰でもいい、俺を救ってくれないだろうか。
俺に一声掛けてくれないだろうか。
1台の車がやってきた。
人を下ろすとまた行ってしまった。
きっと街まで戻ったのだろう。 ついでに俺を・・・。
そしてまた静寂。
誰も居ない、何も無い。
まだ明るかった外も既に闇が多いつくしている。
俺は、俺はどうすればいい・・・?
・・・。
何度目の一服か、たいして吸いたくもないタバコを吸っていると、一人のおばちゃん従業員がタバコを吸いに来た。
このおばちゃんももう何度か見ている。 それだけ俺が長い事ここにいるのか。
このおばちゃんは俺の事をどう思っているのか。
おばちゃん、一言でいい、俺に「何してるの?」と聞いてくれないか?
いや・・・待てよ?
そもそも俺はこいつらの仲間のミスでこの時間までここにいるのだ。
お客さんからすればどの部署の従業員がミスをしたかなんて関係ない。
従業員のミスは会社全体のミスだ。 そうだろ!?
俺だって113で散々謝ってきたんだ。 それは俺が悪いわけじゃない。
おいおばさん! 俺はお前らの仲間のミスで未だここにいるんだ。
俺はおばさんに声を掛けた。
「タクシーを呼んで欲しい。俺の携帯はここでは通じないんだ。」
なんというグッドアイデア。 なんという勇気。
かっこいいと言わざるを得ない。
するとおばさんは「こっちへ来て」と言い、「ほらそこの受話器、上げるだけでタクシー会社に繋がるわよ」と言う。
な・・・なんだって!?
な、なんだってー!!
俺は・・・俺はなんて無駄な時間と無駄な不安をしていたんだ・・・。
くそっ! ガッデム!!
俺はここに受話器があるのを知っていた。
しかしそれはタクシー会社直通の電話だとは思わなかった。
なぜか・・・なぜだか緊急用の警備室へと繋がる電話だと思っていた・・・。
「ロヴァニエミ空港までタクシーを1台。 俺? 俺はマヌケな日本人さ・・・。」
こうして無事にタクシーを呼び、10分もするとタクシーはやってきた。
おい! モニタの前のお前!! バカにしながら見てるだろうけど、実際に一人旅でこんな事件は不安でしょうがねーぞ!! |